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A3!のストーリーの良さを言語化したい 〜②プレイヤーの演劇リテラシーを育てるのが上手い〜【エースリー】

 

こんにちは。らべです。A3!のストーリーの良さを言語化するシリーズ第二弾です。前回(A3!のストーリーの良さを言語化したい 〜①そもそも演劇という題材がフルボイスのソシャゲに最適〜【エースリー】 - すこやか)は演劇という題材がそもそもフルボイスのソシャゲに合っているというお話をしましたが、ここからはA3!のストーリーの構成や描写の面に踏み込んでいこうと思います。今回は「A3!はプレイヤーの演劇リテラシーを育てるのが上手い」というテーマです。メインストーリーを読んでいることを前提に書いておりますので、未読の方はご注意ください。

また、この記事を書くにあたり、以下のエーアニ初見感想記事を参考にいたしました。

【ミリしら超感想】『A3!』 全話まとめ 経験者目線で読み解く演劇と作品の魅力

 

ストーリーの理解に必要なプレイヤーのリテラシーとは

前回は、ストーリーを成り立たせる最低限の要素として整合性を挙げました。起きた出来事に対する主人公の感情とプレイヤーの感想がちぐはぐになってしまうと、ストーリーにプレイヤーが置いて行かれてしまうということです。

しかしながら、一つの活動を話の中心に据えるストーリーの場合、他にも気を配らなくてはならないことがあります。それがプレイヤーの主題リテラシー向上です。具体的には、A3!ではプレイヤーがストーリーを追う中で自然に演劇の何たるかを理解できるようになっている必要があるということです。A3!のヒロイン・立花いづみは過去に演劇に真剣に取り組んでいたものの挫折したという経歴の持ち主ですが、プレイヤーが演劇の経験者とは限りません。演劇の経験者でなくともストーリーを読んでいるうちに自然と少しずつ演劇に対する知識・知見を身につけられるような構成でなくては、感動的な場面であってもどこに感動することができるのかわからないまま終わってしまいます。

A3!には、プレイヤーがあくまで主人公とニアリーイコールの存在であるという建前を保ちつつも、プレイヤーに演劇への知見を与え物語を読み解くためのヒントを与える工夫がなされています。

 

A3!の段階を踏んだ演劇リテラシー育成

A3!ではどのような流れでプレイヤーが演劇リテラシーを獲得できるようになっているのか、各組の旗揚げ公演の流れとともに見てみましょう。

上記の問題の解決方法はいろいろありますが、最もメジャーなのは初心者が経験者に教わっている姿を描写することでしょう。このときに物語の中で知識を得ているのはキャラクターなのですが、その様子を見ることで読み手も共に学び、その後の読解に活かせるようになるという構図を作れるからです。

A3!では、最初に登場する春組が全員演劇初心者で、経験者のヒロインとさらにベテランのOB・鹿島雄三がアドバイスを加えていくことでこの図式を作っています。組の中に経験者がいたら、上手くまとまるのが早くなりすぎてしまったり、内輪で問題が解決してしまったりして、プレイヤーを置いていってしまっていたかもしれません。

前回述べたように、A3!は演劇をテーマにしているため、ボイスでなんとなく劇団員たちのお芝居の上手い・下手を判断することは比較的容易です。ただ、それがなぜ上手くいかないのか、上手くないとはどういう状態なのかまでは説明できないプレイヤーが多いでしょう。この「なんとなくこう思う」という部分を、鹿島雄三がズバズバと問題を指摘し、立花いづみが改善プランを立てていくという方法で明確にしてくれるところに、A3!のストーリー作りの上手さが見えます。技術を磨いて台詞を届けること、観客を意識すること、高い熱意で取り組むことなど複数の要素で演劇が成り立っていることや、これらをどの程度達成できるかが個人で違っているということが明文化されるわけです。こうして明るみになった問題を乗り越えた先にある春組旗揚げ公演は、非常に感動的なものに仕上がっています。

続く夏組では演劇初心者のみならず、天才子役上がりの有名俳優・皇天馬や、はじめから演技が上手い憑依タイプの斑鳩三角が登場することで幅を持たせつつ、より深く演劇を理解できるようになっています。特に舞台と映像の違いやそこから生じる皇天馬の葛藤などは、初心者のみの春組では描けない点です。皇天馬が他のメンバーの課題や良いところを指摘することで、属人的なそれぞれの芝居の味というものにも踏み込んでおり、より劇団員一人一人が芝居をする意味が浮かび上がってくるようになっています。

さらに秋組では、プレイヤーが春夏で演劇の何たるかをある程度掴んだことを前提に、演劇には個人のプライベートすら乗っかってくるということや、演劇が彼らの人生にもたらす作用をも強く描いています。秋組は群を抜いてストーリーのまとまりが良く評価も高いという印象があるのですが*1、彼らが一番最初に登場する座組であったらここまでの評価は得られなかったでしょう。春と夏の公演を経て演劇がポジティブな変化をもたらしてくれる強い輝きを持った営みだと知っているからこそ、初期の演劇を舐め腐った摂津万里もニコニコしながら見守れるというものです。

最後に登場する冬組は、演劇リテラシーの向上という観点から見れば、どちらかというとエクストラステージ的な役割を果たしています。冬組の面々にとってお芝居の技術的な部分はさほど課題ではありません。稽古もサクサクと進み、一番それらしく仕上がるのが早い組だと言えます。問題となってくるのは個人のプライベートな部分です。秋組のような殴り合いの荒療治ができるわけでもない大人になりすぎた冬組は、ファンタジー的要素も織り交ぜつつ問題に向き合っていきます。特にここで重要となるのが、月岡紬と高遠丞の互いのお芝居へのリスペクトです。ここまでの劇団員たちはほとんど互いのお芝居を見たことがない状態から稽古を積み上げてきたわけですが、彼らは互いが舞台の上でどう演技をするのかよく知っています。彼らのプライベートな感情に影を落としていたのはまさに互いのお芝居への気持ちの強さだったことが判明し、大団円へと向かうことになります。それぞれの劇団員のお芝居には属人的な傾向があることをここまでで十分理解できているからこそ、この展開が効いてくるのです。さらに高遠丞の古巣であるGOD座が取り上げられることで、劇団にもそれぞれカラーがあることや、劇団が劇団員の持ち味に大きな影響を与えることも学べますよね。一度は突然のすこしふしぎ路線でプレイヤーを驚かせつつも、やはり最後は演劇という主題に返ってくるところ、そしてそれが今までプレイヤーが得た知見のどれとも違っていて多角的であるところなどが、さすがA3!だと思います。

このようにA3!は、少しずつ角度を変えながらプレイヤーの演劇への理解を深め、深まった知見によって読解の幅を広げて楽しめるよう自然に誘導してくれているのです。

 

まとめ

今回は特に旗揚げ公演に絞り、順を追ってA3!のプレイヤーの演劇リテラシーを育てる過程を取り上げてみました。とにかくA3!はプレイヤーを置いていかないことに長けているストーリーだということを再確認しています。次は「ヘイト管理の上手さ」について書く予定です。

 

*1:唯一旗揚げ公演時点で全員がある程度素性を明かしているというのも理由の一つだと思います。他の組にはシトロン・斑鳩三角・御影密などパーソナルな部分の事情を明かすのが先になる劇団員がおり、先を読まないとわからない部分もあるので……