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A3!のストーリーの良さを言語化したい 〜③ヘイト管理が上手い~【エースリー】

 

こんにちは。らべです。A3!のストーリーの良さを言語化するシリーズ第三弾です。前回(ブログA3!のストーリーの良さを言語化したい 〜②プレイヤーの演劇リテラシーを育てるのが上手い〜 - すこやか )は、A3!がプレイヤーの演劇リテラシーを向上させるのが上手いというお話をしました。今回は「A3!は登場キャラクターのヘイト管理も上手い」というテーマです。メインストーリーを読んでいることを前提に書いておりますので、未読の方はご注意ください。

 

A3!のヘイト管理の例

ソシャゲに限らず、物語の展開上誰かしらが主人公サイドないし他キャラクターと敵対する役とならなければならないことがあります。しかしこれらの役割を果たす人物が一方的に酷いことをやり過ぎたり納得しにくいことをしていたりすると、ヘイトが溜まりすぎて物語を楽しみにくくなってしまうという問題があります。特にA3!はハッピーエンドを掲げているので、少しでも予期している以上にヘイトを残してしまうと問題が解決したという明るい雰囲気に違和感が出てしまうんですよね。

最初期のA3!において、MANKAIカンパニーの前に立ちはだかる壁になったのが古市左京です。彼はMANKAIカンパニー存続の条件を厳しく取り決め、徹底的に借金の返済を迫りました。ただ、いざ彼が新生秋組の一員となったときに反発を覚えたという人は少ないでしょう。それは、彼があくまで劇団の存続のために厳しい言葉をかけていたことや、迫田ケンという憎めない付き人を従えていることに起因しています。実際にA3!1st Anniversary Book「FLOWER」でプロデューサーの沖田さんは、迫田ケンを「左京を徹底的に悪者に描くなかでの清涼剤」として投入することで、古市左京が悪い人ではないと思わせる意図があったと語っています(p210)。先を見越して登場人物の印象のバランスを取るのが上手いですよね。

碓氷真澄や皇天馬など初期から演技にアドバンテージのあった劇団員たちが初期に他の劇団員にキツく当たるシーンも、あくまで言い方が悪いだけで公演を成功させるためのものであるとわかりますし、少しずつ改善されていくからこそ受け入れやすくなります。前回述べたように初期の秋組は演劇への熱意がなかった摂津万里の目をいかにして覚ますかが課題となりましたが、春夏で培った信頼を担保に、いつか彼も演劇の素晴らしさに目覚めるだろうと思えるからこそヘイトを溜めすぎずにフリを楽しめますよね。劇団員たちがぶつかる姿などはその後の感動を生むので、このあたりに気を配るのが上手いA3!はさすがだなと思います。

このように、正論を言っている・どうしようもない事情があるなどの理由や、反省したと明らかになるなどの描写があれば、反感を買いやすいキャラクターの言動も納得感のあるものに変わります。

 

神木坂レニに代表される「そういう血だから」の魔法

古市左京が劇団員になったあとにMANKAIカンパニーを苦しめたのが、GOD座主催の神木坂レニでした。スパイや陰湿な工作などの手段でMANKAIカンパニーの解散を迫る彼にカンパニーの面々は苦しめられましたが、メインストーリーを進めるに従い、徐々に彼と立花幸夫の並々ならぬ因果が明らかになっていきます。

もちろんどのような事情があったとしても、神木坂レニがMANKAIカンパニーに対して行ったことがなかったことになるわけではありません。ただ、立花幸夫があまりにも魅惑的である種恐ろしい存在であったことが明かされることで、むしろ神木坂レニに同情したくなるようになっています。そしてこの不思議な魅力は、ヒロインたる立花いづみにも貫かれている性質であると言えます。A3!のプレイヤーはみな、見境なく劇団員を勧誘し、彼らを演劇の魅力に目覚めさせ、器の大きさをもって成長を促し続けられるヒロイン・立花いづみに惚れているといっても過言ではないでしょう。神木坂レニの回想によってこの父親にしてこの娘ありと納得させられ、周りを巻き込んでいく力の強い「立花の血」の魅力にプレイヤーも神木坂レニ同様魅了されていくのです。神木坂レニがその後のMANKAIカンパニーへの協力を約束したこととも相まって、以降は彼に嫌悪感が向きづらくなっていると感じています。

ちなみにA3!の「血(血縁)」というテーマによるヘイト管理は、立花幸夫といづみ以外の血縁者にも見て取ることができます。たとえば春組第4回公演の前の碓氷真澄の父親などは、自分勝手な理由で碓氷真澄を劇団から引き離そうとし、春組存続の壁となりました。しかしよくよく話を聞いて、碓氷真澄の持ち味である突っ走りすぎる性格が親子揃ってのものだったとわかると、なんとなく許せてしまう、なんとなく納得できてしまうという構図が生まれます。もともと好きにならせていた人物の性質をも含めて「そういう血だから」と説明することでヘイトを抑えている、なんだかんだで好感を持たせることに成功しているという印象です。

特にA3!においては「立花の血」を持つ者が周りを巻き込んでいく過程が物語の核の一つとなって(いると個人的には思って)おり、この要素を大小折り重ねて散りばめることで、憎めないキャラクターたちを作ることに成功しています。

 

あえて天立桂樹のヘイト管理を放棄した12幕以降の展開は?

神木坂レニを味方としてつけたあと、MANKAIカンパニーは天立桂樹という新たな敵に立ち向かうこととなりました。佐久間咲也が演劇に興味を持った原体験の当事者であると初期から聞かされていた人物の度重なる妨害に、心を痛めたプレイヤーも多かったでしょう。

私は個人的に、「12幕の最後で天立桂樹が佐久間咲也のお芝居に感動して悪事をやめる」という筋書きを予想していました。基本的には起きた問題がそのストーリーの中で収束するというのが今までの流れだったからです。しかしながら、最終的にMANKAIカンパニーが無事だったのは天立桂樹が反省したからではなく、あくまで彼に懲罰が下ったからに過ぎませんでした。個人の感想にすぎませんが、このストーリー作りはヘイト管理を意図的に放棄したとも読むことができると思っています。今までヘイト管理を上手く積み上げてきたからこそこの点が意外な展開として機能しており、これ以降の物語への期待を高めています。

さらに言えば、彼の養子である天立甲が何やら今までのA3!で描かれてきた「血」の扱いとは違う方向性の心情を父に対して持っていることをほのめかしており、今後の物語がますます予測不可能になっているとも言えそうです。

 

まとめ

個人的にA3!は「立花の血」という概念を中心にして回っている節があると思っているので、書けてすっきりしました。天立桂樹の悪事周りについてはかなり意外で、A3!にしては異色の展開だという感想を持っています。しかしこれだけの筆力があれば今まで以上の面白い展開が作れるのではないかと考えており、あまり不安がないのがA3!のすごいところです。