すこやか

すこやかに推しを推します 攻略情報や初見感想置き場 A3!、刀剣乱舞、千銃士Rなど

A3!のストーリーの良さを言語化したい 〜①そもそも演劇という題材がフルボイスのソシャゲに最適〜【エースリー】

 

こんにちは。らべです。「A3!はストーリーが良い」とよく言われますし、私自身もそう感じているのですが、「ストーリーが良い」とはどういうことなのかをより詳細に言語化してみたいと思います。今回は、「演劇」という題材がそもそもフルボイスのソシャゲという媒体と噛み合っているため、その時点で評価が高くなりやすい要因がすでにできあがっていたのではないかという話をします。シリーズ化し、その他の観点についても順次追加していく予定です。

 

一人称ストーリーの成立要件はプレイヤーと主人公の歩みを一致させること

ソシャゲなどのストーリーにありがちな失敗として、主人公の思考やストーリーの速度にプレイヤーが追いつけないということが挙げられます。特に一人称視点の物語の場合、自分とニアリーイコールであるはずのキャラクターがちぐはぐなことを言っていると、ストーリーを理解すること自体が困難になり、整合性が下がりかねません(=下手と判断される)。

もちろん独特な考え方をする主人公が悪いというわけではなく、描き方次第では魅力的に映りうるでしょう。実際に、A3!のヒロイン・立花いづみも度を超したカレー愛や演劇への強すぎる熱意などにけっこう個性のあるキャラクターです。ただA3!は、個性的なヒロインを通しても、物語上の事実として提示された情報がプレイヤーの受け止め方と異なるということは極力ないように丁寧に作られている印象を受けます。

たとえばサッカーを題材にしたストーリーを作るとして、もともと弱かったチームが試合で勝利できるようになるというポジティブな展開を描く場合には、それなりの練習過程の描写が求められるでしょう。何もせずに勝手に上手くなれるのでは、読み手は物語に置いて行かれてしまいます。さらにその過程や結果を見せる際には、「本当に上手くなっている」「これなら勝てる」と読み手に思わせるだけの説得力あるプレーの描写も必要です。これが「勝ちました」と結果をキャラクターにひとこと言わせるだけだと、一気に感動できなくなってしまいます。このような説得力の構築を、いきなりすぎもせずダレもしない程度のスピード感でこなす必要があるという点が、ストーリーを作る上での難しい第一関門でしょう。

A3!では、公演が成功に向かう過程の描き方は丁寧な心情描写などで達成されているわけですが、ここではその結果の提示のしかたについて、「演劇」という題材がフルボイスのソシャゲという媒体に合っているという話をしてみようと思います。

 

演劇モチーフはフルボイス・ストーリー主体のソシャゲにおける最適解?

ソシャゲにはアイドルや部活動など、さまざまな活動を題材としたものがあります。王道な展開は、これらの活動を成功させる(主人公が成功に導く)というものです。多くの題材があるとはいえ、フルボイスのソシャゲにおいて「演劇」以上のチョイスはなかなかないのではないかと思います*1

それは、活動そのものの成果をボイスで実感できるからです。簡単に言えば、お芝居で劇団員たちが台詞を言っているところをプレイヤーも実際に聞いて良し悪しを判断することができるということです。月岡紬がオーディションで体現したように、台詞だけが芝居というわけではなく、仕草などにも重要な要素はあるのですが、ボイスがつくことでどんな芝居なのかある程度想像が付くわけです。フルボイスで劇団員たちがお芝居をしているところを聞いていると、自然とプレイヤーとヒロインの感想が一致するんですよね。この点のみでも自ずと、劇団員が成長し続ける様子や公演の成功という結果を説得力を持たせて描写することにほぼ問題がなくなるのです。

特に、下手な芝居も成長過程として容易に見せられるところは他と一線を画すでしょう。たとえばアイドルものの場合、楽曲を聴くことでキャラクターたちのアイドル活動の成果を実感できます。しかしメタ的に言うと、楽曲は我々プレイヤーのいる現実世界で商品として売れる一定の水準を保ったものがリリースされることがほとんどだと思います。その点A3!では惜しみなく「演技が上手い人たちが全力で演技が下手な演技をする」ことで、成長途中の描写も浴びられるため、よりダイレクトに公演成功の感動を味わえるのです。

もちろんこれはキャストの皆様の素晴らしい演技があってこそ成立することなのですが、そもそもソシャゲというかなりストーリーの表現方法が狭い(立ち絵と動き・背景・音くらいの)コンテンツで、実際に主題となる活動をやって見せられる(聞かせられる)題材って少ないのではないでしょうか。だからこそ多くのゲームでは、ストーリーで成果を実感させるような演出(音楽や観客の反応の描写など)を加えると共に、アクション・バトルやリズムゲームなどの要素でプレイヤーに擬似的に活動を体験させるという手法が採られることになります。その「体験」要素をA3!はほとんどストーリー(ボイス)部分だけで自然にまかなうことができており、ストーリーを気軽に楽しめるソシャゲとして評価されているのだと思います*2

 

演劇の問題を演劇で解決する主題への真摯さ

さらに、演劇という題材に真面目に向き合っていることもA3!の良さの一つです。

私は他のソシャゲをプレイした際に、「外部から来た問題が外部で解決してしまっている」という印象を受けたことがあります。キャラクターを掘り下げるため、彼らのネガティブなプライベートの経験やその克服について描こうとしていることは理解できたのですが、それらと主題となる活動があまり相互に作用しあっておらず、急に問題が発生し、急に解決し、急に活動が成功してしまったという感想を持ったのです。まさにストーリーにプレイヤーが追いつけていない状態でした。

その点お芝居は特にその人の気持ちや経験などがモロに乗る活動であり、どんなことも糧にできる活動でもあるために、どんなに関係なさそうなプライベートなことも公演の成功のために必要な過程になるんですよね。公演が成功するのは「ちゃんと練習したから」だけでなく、彼らが自分の人生と向き合い課題を乗り越えていくからです。ついてくる結果の説得力をソシャゲに必須と言っていいキャラクターの掘り下げで達成できるのが、演劇を題材にするアドの一つと言って良いでしょう。

しかもA3!は、人の気持ちが演劇にもたらす影響のみならず、演劇が人の気持ちにもたらす影響も描いています。たとえば摂津万里は演劇という自分を高め続けられるジャンルに出会ったことで、大きく人生が変わりました。この両面を描くことで、公演が成功する、演劇の作用が実感できる、演劇を好きになれる、もっと公演が成功してほしいと思える、さらにヒロインとプレイヤーの実感が重なる、強い気持ちがまた公演を成功させる…… というサイクルを回せるのが良いですよね。

 

まとめ

この記事では、A3!が演劇というモチーフを選択したことで、まずは必要最低限の整合性を取りやすくなっていること、そしてソシャゲのストーリーで読み手を感動させるための要素を揃えやすくなっていることを指摘しました。

演劇というジャンルのメリットを最大限使いつつも、ちゃんとその演劇に敬意が払われるというところにA3!の良さの一端があるのだと思っています。

続くかもしれません。

 

*1:A3!1st Anniversary Book「FLOWER」にて、プロデューサーの沖田さんは「学生の頃から舞台観劇が好き」だったため女性向けコンテンツの題材に演劇を選ぼうと思ったと語っています(p208)。

*2:A3!1st Anniversary Book「FLOWER」にて、プロデューサーの沖田さんは「なるべく難易度を抑え、ストーリーを楽しんでいただく」ことに集中できるようにという狙いがあったと語っています(p211)。