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A3!のストーリーの良さを言語化したい 〜⑤表裏一体の要素の転換と進展による深み~【エースリー】

 

こんにちは。らべです。前回(A3!のストーリーの良さを言語化したい 〜④劇団員のお芝居の傾向を分類してみる~【エースリー】 - すこやか)は、劇団員の強みと課題について七つに分類して分析しました。その中でちらりとこれらの要素が表裏一体であることを指摘したため、その表裏一体の性質がストーリーの中で巧みに転換されて多様な面を見せながら描かれているということや、それらを進展させてドラマを生んでいることなどを詳細に述べてみようと思います。メインストーリーやイベントストーリーのネタバレを含みますのでお気をつけください。

 

摂津万里の器用さの転換

前回、A3!では劇団員の「器用さ」と「熱意」という要素がほぼ表裏一体の関係として描かれていることを指摘しました。そしてこれらの要素は単に対立するのみならず、互いに作用し合ったり、長所・短所などにさまざまに転じて働きうるものでもあったりすることを、摂津万里を例にしてここで述べたいと思います*1

器用で簡単に物事のコツを掴めるタイプの劇団員は複数人いますが、摂津万里は「スーパーウルトライージーモード」という言葉にも表れているように、極端にこの性質が強いですよね。本来なんでも上手くできるというのは圧倒的な長所のはずなのですが、演劇においてはそう簡単には行きませんでした。特にMANKAIカンパニーは再スタートしてまもない劇団であるために、技術力一本での勝負ではなくそれ以上に観客に伝わるものを届ける必要があったことや、彼がなんでも上手くできるがゆえにそうではない人を見下していたせいで、周りとの高め合いが上手くいかなかったことなどが理由でしょう。この場合において摂津万里の器用さは仇となり、抜け出すのに相当苦労したことが伺えます。

しかし兵頭十座のポートレイトに火をつけられてからは、リーダーとしてメキメキ成長しました。強い熱を持ってお芝居の技術向上のための練習を積極的に行うようになったことはもちろんですが、それ以外にもMANKAIカンパニーや秋組に大いに貢献するようになっています。たとえば傷つけられた衣装を修復しなくてはならなくなった際にはすぐにミシンの扱いを覚え、率先して瑠璃川幸を手伝いました。今まで短所としてのみ機能していた器用さが今度は長所となり、チームを助けるという役割に転換しています。さらに彼は、物事を遂行できる力を身につけるスピード(≒手先の器用さ)のみならず、その場に必要なものを導き出す力(≒要領の良さ・頭の回転の早さ)も高いです。これは、真実を告白した七尾太一にポートレイトの発表を要求するという方法で気持ちを吐露させたことなどに顕著に表れていますよね。彼自身がポートレイトの作用を実感して演劇にのめり込むようになったからこそこの提案ができたとも言え、非常にドラマチックかつ緻密なストーリー構成だと思います。

ヘイト管理についての話(A3!のストーリーの良さを言語化したい 〜③ヘイト管理が上手い~【エースリー】 - すこやか (hatenadiary.com))にも通ずるところがありますが、ただ単に摂津万里が更生して熱意を得て良い奴になっただけではなく、ちゃんと一貫してそのような行動ができるだけの力を持っていたということがわかるところに、A3!のストーリーの構成力や、人間の描き方の巧みさが見てとれます。

ちなみに、熱意が仇になるシーンの例としては、第1幕で皆木綴が鹿島雄三に、脚本への思い入れが強いがゆえに全体の調和を乱していると指摘されたことなどが挙げられるでしょう。劇団員たちの持つ要素にいろんな面から光を当て、良い部分も悪い部分もその人の核にあるのだとわかるように描くのがA3!の良さの一つだと思います。

 

Fallen Blood・メインストーリー第11幕での「死んでも負けねぇ」コンビの強みの捉え直しによる進展

上記に関連して、さらにA3!は物語を進展させることも上手いということについても述べてみます。

第3幕にて摂津万里が兵頭十座に当てられて強い熱意を持ったことで、新たな疑問となりかねなかったのが、「要領の良い摂津万里に熱意まで宿ってしまったら不器用な兵頭十座に勝ち目がなくなるのではないか」という点です。この二人は「死んでも負けねぇ」と互いに高め合っていくコンビである以上、お互いの実力が拮抗しているということを示さなくてはならなかったはずです。摂津万里が生来の器用さに加えて強い熱意も持つようになったのに対し、器用さはその人の生まれつきの能力による部分が大きく、兵頭十座はその点でどう摂津万里と渡り合っていけるかというのは、第3幕以降に一つ語るべきポイントだったでしょう。また、いくら器用でないとはいえ兵頭十座の確かな成長も描く必要があった点で、秋組第6回公演イベントストーリー「Fallen Blood」は、秋組全員に特に強い影響を与え続けてきた兵頭十座の大切な主演公演であると同時に、それ以外にも語るべき問題が多い重要なイベントだったと言えます。

A3!ではこの問題を、「二人はタイプの違う正反対な役者である」と語り直し、二人の演技の性質について深掘りすることで解決しました。伏見臣が撮影したインタビュー映像やワークショップの講師など、外部の視点を積極的に取り入れつつ、摂津万里を「技術面の飲み込みは早いが熱意のない役者」から「自分の見せ方や舞台全体のことを冷静に考えられるが、どうしても一歩引いたような印象を与えてしまう役者」、兵頭十座を「熱意はあるが技術の伴わない役者」から「演じる人物や物語にのめり込むことで強い熱量で人を引き込む瞬間を作れるが、視野狭窄気味になりがちな役者」と捉え直したのです。ここまで来ると、とても前回の記事で行ったような分類には収まらない個人の持ち味という傾向が強くなり、より個人の得意分野・苦手分野に着目してストーリーを読むのが楽しくなりますよね。このコンビが正反対であるという大事なポイントは変わらないまま新しい面を描くことで、技術面に留まらない深い部分での勝負となったこと、二人の勝負はこれからも一生続くであろうことなどが読み取れます。

そもそもA3!の劇団員たちがACTごとに歳を重ねるというところにも現れているように、設定の段階で上手く多様性を作るにとどまらず、適宜ストーリーが進む中で彼らの持つ要素を捉え直していくことで、よりドラマを生んでいるんですよね。

メインストーリー第11幕でもこの違いは強く意識され、摂津万里は器用であったがゆえの葛藤なども交えて語りながら自分の強みと弱みをブラッシュアップさせ、主演として一皮剥けた姿を見せてくれました。さらに第8回公演「サウスヒルプリズン」では、兵頭十座の「違う誰かに」という原点とも言うべき願望にメスを入れ、彼が人にリスペクトを払える素晴らしい人間であること、そんな彼自身も誰かにとっては憧れられるような存在であることなどを描いていました。今後も二人の関係は変わらず、文字通り「死んでも負けねぇ」思いを胸に一生涯切磋琢磨し合う相手なのだなと予感させられます。

 

まとめ

Fallen Bloodはイベントストーリー・公演演内容ともに大好きなので、第3幕と関連した要素の転換・進展についてはずっと言及したかったポイントでした。このイベントストーリーが特に物語としての評価が高い印象なのは、こういったところに由来すると考えています。また、このシリーズでは劇団員たちの描き方を主に扱っているので、どこかのタイミングで公演について語る記事も書けたらと思います。

 

*1:当シリーズでは摂津万里に関する言及がかなり多いのですが、えこひいきではなく、あくまでストーリーがよくできていると感じる部分・説明する際にわかりやすそうな部分が多いためです。ご了承ください。